CRY FOR ME
電話をかけると君は無言だった。
僕もそれに合わせて無言になった。
夜も遅いからもう寝ようかなと少しふてくされた僕は天窓を見上げた。
すりガラスからは何も見えなかった。
君は電話を切らないのかと僕に聞いた。
少しだけ君と話がしたかったからと僕が言った。
案の定君は、話って何。と
聞くそぶりすら見せずに相変わらず黙った。
課題してるんでしょ」
そう。」
だから黙っとこうと思って。」
他にもっと電話する相手いるんじゃないの?」
でもそしたら君も他の誰かと電話しちゃうでしょ。」
彼女はまた無言になった。
相談があるんだけど、、」
彼女から話しかけてくることはまずないから少し焦った。
なに?」
モンスター飲んだの。」
うん。」
そしたら震えが止まらないんだよ。」
僕は慌てたふりをして少し笑った。
大丈夫だよ。君お酒も弱いでしょ。そういう刺激に弱い人なんだよ。」
そうなんだ。お母さんに電話しようと思ったんだよね。」
不安がる君は僕一人にはもったいないぐらいに可愛かった。
ところで僕は彼女のことを好きなわけでも愛してるわけでもない。なんなら名前すら知らない。好きでもない人と、好きな人とするようなことをすると案外単純にその人のことを好きだと勘違いしてしまうのかもしれない。そもそも好きはただの勘違いなのかもしれない。
ならばこの世のほとんどは全て勘違いなのかもしれない。勘違いの中で答えを探している、見つかるはずないのに。そのおかしさや滑稽さに少し見とれていた午後である。