Dinosaur
ベランダに出てタバコを吸う。そうすると向かいの家のベランダにもタバコを吸う彼女がいる。田舎でも都会でもない住宅街。彼女とは幼なじみだけど、まだ小学生に入る前の頃にずっと遊んでたきり、家が近いから、家が近いだけだからなのか、それ以来彼女とは全く会うこともなかった。
それが最近僕がベランダでタバコを吸うようになってから、たまに時間が合えば、小さい道を挟んだ向こう側に彼女がいる。連絡先は知らなかったけど、たまたま家の前で会ったときにラインを交換した。
もしもし。」
元気?」
うん。」
久しぶりだね」
1週間ぐらいかな」
どうしてたの?」
バイトが忙しくて」
なんのバイトしてるの?」
スーパーのバイト」
どこの?」
イオン」
そうなんだ。大変?」
うーん、暇だけど、退屈」
なるほどね」
バイトしないの?」
此間面接に行ったんだけどね〜、落ちちゃった」
まじか。まあコロナも終わりかけだから倍率高いんじゃない」
多分そう」
でもバイトなんかしないでいいならしないほうがいいよね」
うーん、私は働くの好きだからね」
そうなんだ、なんで?」
だって仕事して褒められたら嬉しいじゃん」
でも失敗したら怒られるじゃん」
私失敗しないからね」
それじゃあ成長もないじゃん」
そんなこともないよ。それに、失敗も成功に繋げればそれは失敗じゃなくなるじゃん」
安っぽいこと言うね」
大切なことって安っぽいのよ」
でも俺だったら失敗したら成功する前に辞めちゃうから失敗は失敗のままで終わっちゃうのよ」
ハハハ、それはじゃあ仕事選びに失敗してるのよ」
そうなのかな」
そうだよ」
明日はなにするの?」
なにもしないかな」
いいね」
でも暇よ」
退屈じゃないんだったらいいじゃん」
そうね」
久々にタバコ吸ったら気分悪くなっちゃった」
もう寝なよ」
そうする」
じゃあね」
じゃあね」
僕は部屋に入って、思わず大の字に寝転ぶ。
余ってる缶コーヒーを足元に置く。
会話を終えるのはいつも君からで、会話の最後はいつも僕だってことに気づく。本当はそうじゃないのかもしれないけど、僕がそうしたときだけ頭に残っているのはどうしてなのだろうか、と考えて、余っているコーヒーを飲み干す。少しこぼして、それを冷静なフリして拭く。今日の風は気持ち良くて、明日は雨がいいなと思う。