ミッドナイト・ランデブー
また僕は夜に逃げてる。君が好きなバンドをなんとか好きになろうとしてる。だけど無理だ。この事実をもう受け入れた。長かった梅雨が明けて、もう皆んな平気で街を歩いてる。一丁前にそれなりに隠し事を抱えこんだまま。
「梅雨明けちゃったね」
「やっとだね」
「うん。でも雨好きだったんだよね」
「なんで?」
「音とか、匂い」
「そうなんだ」
「嫌い?」
「匂いは苦手かな」
「前から思ってたんだけど、僕たちもう無理だよね」
「え」
「なんかもう嫌になっちゃった」
「なんで」
「だってもう何もかも合わなくなっちゃったよ。前は傘さしながら二人で歩いたりしたじゃん。お金なんて要らない様な二人だったじゃん。歩いて遠くまで行ったし、シャネルの前はビームスの服を買って喜んでたよね」
「ビームスなんて歳じゃないでしょ」
「だけど俺はあの頃がいいよ」
「人は皆んな変わってくんだよ」
「俺は変わらなかったよ」
「変われなかっただけじゃない?」
彼が出て行ったドアの方向を見てる。こんなに分厚くて重厚なドアだったかなと思う。カーテンを開けると夏の兆しが痛いほど街を照らしてた。清々しい気持ちの入道雲が空を闊歩して、それを鬱陶しいがる人が地面を漂っていた。