2時間だけのバカンス
右斜め後ろから視線を感じる。多分あの子だ。クラスで一番可愛い女の子。私とは正反対の子。ずっと見てくるから鬱陶しい。なんで私を見るんだろうか、壁の花化した私を見て楽しいわけがない、多分あの子は私のことをバカにしてる。あの子には友達もたくさんいる。何もしてないのに自然と人が集まってくる。世界になんの不満もなさそう。教室にいると息が詰まるから休み時間は外に出てタバコを吸う。外に出て座るベンチから見えるあの子はなんだか輝いて見えて、シルクみたいな透き通る白い肌に、伸びる綺麗な黒い長い髪に、キュートな笑顔が眩しい。The smithを聴きながら彼女を見ると、サマーを見てるみたいでなんだか楽しくなる。いつも笑顔で、周りの子達から愛されてて、人生全てうまくいってそうで、私とは真反対に見えて羨ましい、でもまあ私は一人でいいや。
頬杖を付きながら右斜め前のあの子を見つめる。金髪で短髪、しっかりした色のジージャンをいつも着てる、イカしたあの子。多分聞いてるのはブリティッシュロック。全然わからない世界。休憩時間に決まって彼女は教室を出て行く。そこから少し遠回りをして教室のすぐそばのベンチに座って、紙巻きたばこを咥える。ロールするときの口元がセクシーで見入る。それから彼女は遠回りせずに目の前の芝生を通って教室に帰ってくる。花が死んじゃうって思って私は芝生を踏めないんだけど、彼女はそれができるから羨ましい。別に彼女になりたいわけじゃないけど彼女を見てたら元気が出る。でも私は一人はあんまり好きじゃない。
「ねえあんたコロッケ好き?」
「お皿にのってない方のコロッケなら」
「思い出横丁のコロッケ食べたことある?」
「ない」
「なんで」
「あそこ変な人多いからあまり通らないの」
「じゃあ食べに行こうか」
「え、今から?」
「うん」
「まだ授業あるんだけど」
「授業をサボるのは学生の特権でしょ。大人になって宇多田ヒカル聞いて後悔したいの?」
「私は宇多田ヒカルを聞くような大人にはならない」
「そうね、ならないかも。で、どうするの?」
「そのコロッケ美味しいの?」
「別に美味しいわけじゃないけど、楽しい」
「わかった、じゃあ行く」
「あんた、意外とそういう所あるのね」
「私、別にいい子ちゃんじゃないよ」
「いい子ちゃんに見えるよ、皆んなに愛想よくて」
「んー、なんか私わかるんだよ、あ、この人はこういうことを私に求めてるんだなっていうのが」
「それって本心で接してないってこと?」
「それが私の本心なんだよ。別に私が私である必要もないの」
「なんで」
「だって人間は皆んな自分に都合のいいように解釈するの、だからもし私が私自身を前面に出したところでそれは誰かにとって私自身にはならなくて、誰かにとっての私なの。そんなのくだらないでしょ。」
「だから自分を殺すの?」
「だから、別に殺してないんだよ、これが私自身なの、それに愛想振りまいてたら自分の好きなものがスッと手に入ったりするのよ」
「男から?」
「まあそれもあるよ、あんたはなんでいつも一人なの?」
「わからない」