19になった

ドキュメンタリー・アンド・モキュメンタリーブログ

Baby Blue

携帯に表示される通知欄に、2ヶ月前に別れた彼女からのラインが表示された。その時僕は好きな人と桜を見てた。

先に乗っている彼女を追うかのように乗り込んだ電車の中で、彼女のことを探す。背の高い人たちに埋もれる彼女を見つけて、思わず口角が上がってしまい、とっさに目を逸らした。頭の中でどうして彼女に近づくかを考えた。一度次の駅で降りて彼女の近くのドアからまた入ろうか、それとも人の中を縫って会いに行こうか、それとも目的地まで別々にいようか考えた。一度出るのはリスキーだし、別々に居るのもなんだか不自然な感じがして間を縫って彼女の所まで進むことに決めた。彼女の大学がある駅までの時間を近況報告の時間に当てた僕たちはどこか不器用だったと思う。彼女の大学までの道のりには川があって、春にはその川沿いに満開の桜が咲く。冬が好きな僕は春が嫌いだけど、彼女は春に生まれたし、そんな彼女と桜を見れてることに、春にドキドキさせられていることにどこかムカついた。春を楽しむ彼女は僕の二三歩先を歩く。彼女と僕の間に散る桜の花びらにどこか悲しくなって、彼女に追いつく様に僕は彼女の隣まで早歩きした。桜より大人な幼い彼女と、桜より幼い大人な彼女がちょうど桜が咲いている意義と一致する様で不思議だった。でも僕は桜よりあなたの方がかわいいと思った。桜は君のために咲くんだろうかとも考えた。

駅で見た彼女は2ヶ月前と何も変わった所はなかった。彼女は僕に復縁を求めてきた。ぶっちゃっけ断る理由はなかったし、セックスがしたかった僕には断る理由なんてあるはずもなかった。でも桜を見て彼女を思い出さなかったことが、どんな理由よりも彼女を断る正当な理由だった。

「僕、桜を見てあなたを思い出さなかったんだ」

でもこの言葉は彼女にも今の状況にも僕にもふさわしくなかった。「それはもうないよ」と答えを聞いて泣き出す彼女に残す感情もなかった僕に、桜の花びらと同じ切なさを感じた。本当と嘘が色濃く交わる春に、嘘と本当の関係に終わりを作って、僕たちはそれで本当になった気がした。でも彼女が見た僕の後ろ姿が嘘だったことを彼女は知らない。