19になった

ドキュメンタリー・アンド・モキュメンタリーブログ

HEAVEN SEAVEN DAYS

あなたとは真反対の窓の方向を見て、帰り道の中華料理のことを考えながら解く数学の夏休みの課題は進まなかった。遊ぶ友達もいないから毎日来てるのに、独特の好きになれそうもない病院の匂いはいつになっても慣れなかった。高くない階の端っこの小さな病室に三人いた人間。あなたにしては生まれてきたばかりの私と、私にしては死にかけてるあなたのことを、綺麗な歌を聴きながらふと思い出したんだから、やっぱりあなたは綺麗な人だった。だし、あなたは私の中ではまだ死んでないってことだよ。もうあなたの匂いとか、あなたの口癖だとか、あなたの声なんかは全部忘れちゃったよ。でもあなたはまだ生きてる。冬の日のアイスクリームみたいな、バラの中には入らないミツバチみたいな、割れたグラスのようなあなたが好きだった。あなたの作る納豆ご飯はもう食べれない、あれはどうやって作るのだろうか。あなたは今でもアルバムの中で私を抱っしてるけど、いい加減下ろしてよ、疲れるでしょ。広がる薄暗い空の中であなたは私の声をよぶ、私はあなたの名前を読み間違えて、生えてた地面が全て陥没していく。あなた極楽に行ったことないの?、大丈夫だよ、僕あなたのこと時々思い出すんだ。それもふと思い出すんだ、それって絶対に強いんだよ。ずっと忘れないでいるのと違って、絶対に強いんだ。

あなたが僕に作ってくれた緑色のマフラーと、あなたがつけてた真っ赤な口紅と、あなたが来てた純黒の着物に、あなたは沢山の色だったことを思う。そうしてあなたを思い出す僕は今、ベッドの上にいて、こうしてたら最後のあなたにちょっと近づける気がするんだ。ちょっとだけだけど。あなたは死にたがりやだった、今は僕もそうだ。はじに座る僕にあなたが早く死にたいって言ってた意味は分からなかったけど、今ならわかる。だけど僕はあなたとお酒を飲みたかったし、僕はあなたと一緒に成人式の写真を撮りたかったなあ、なんて思うけど、もうあなたはここにいないし、僕のかすれる声じゃもうあなたは振り向くこともないから。SNSにも、インターネットにも、携帯のメモリにもあなたはいません。技術は進歩してるようで進歩なんてしていません。

棺に入るあなたは美しかったし、灰になったあなたもそれはそれで美しかったよ。あなたが愛した人たちが最後のあなたにすごく泣いていました。その涙からは、言葉より感情があふれていました、記憶よりあなたがたくさんいました。その日に食べたマグロからは血の匂いがしました。僕は生きてるんでしょうか、あなたは生きてたから死ねました。僕は生きてるんでしょうか。

 

‎マヒトゥ・ザ・ピーポーの"HEAVEN SEVEN DAYS"をApple Musicで