19になった

ドキュメンタリー・アンド・モキュメンタリーブログ

金木犀

私の彼女はいい匂いがする。ミカンとかグレープフルーツみたいな柑橘系の爽やかな匂い。前に一度香水の種類を尋ねたことがあるけど、なぜか教えてくれなかった。彼女の匂いを感じながらお昼まで眠る日に見た夢は、人が誰もいない広いなだらかな清流を私が大きなミカンの上に乗って下る、そんな夢だった。いい夢を見たなと思っていたら、彼女も目を覚まして、私の長い髪を撫でながら唇にキスをした。朝の匂いがして、お腹がすいた。彼女と違って私はお料理をするのが好きだけど、今日だけはなんだかめんどくさくなって、2人が好きなハンバーグ屋さんに行くことにした。口ひげを蓄えてお洒落なメガネをかけるいい感じの悪オヤジが店主のそのお店はハンバーグもさることながら、外はカリカリで中はホクホクの太いポテトフライがすごく美味しかった。そのポテトに店長特製のタルタルソースをつけて食べると、幸せを感じるのだ。彼女と初めて会ったのもこのお店で、私も彼女もタルタルソースが大好きだった。気づけばもう4年はこのお店に通っていて、その4年のうちに色々なことが起きた。私と彼女が付き合ったし、店長の娘さんは結婚したし、私が通い始める前からいた2組の常連さんカップルは2組共破局して、そこから別れた者同士でまた1組のカップルができたし、相談係だったおばちゃんは夫の転勤で東京に行って今はもうここにいないけど、英語を子供達に教えているハンサムな外国人が常連になったりした。世間はまだ同性愛に色々な偏見があったり、冷たい目で見られることもある。だけどこの場所はみんな暖かい目でいつでも受け入れてくれるし、すごく心地がよくて、ここに来るだけで安心する。少し前までは、自分のことを皆にわかってほしいって思ってたけど、別にみんなにわかってもらう必要なんてないし、少しでも自分のことをわかってくれる人が周りにいたら、あとはなんでもいいかなって思うようになった。私の将来の夢は誰かがなんとなく安心できるような場所を作ることで、私がこのお店でなんとなく自分なりに前を向けたみたいに、誰かにとってもそうなるような場所を作りたいと思う。なんて料理が出てくる間に思うけど、出てきたポテトとハンバーグの匂いにやられてまた私は一つ幸せになった。

 

‎TOSHIKI HAYASHI (%C)の"金木犀 feat. 鈴木真海子"をApple Musicで